風上側へ
機首を風上側へ振っても、グライダーはふたたび上昇しなかった。機体はいま目の前にあるこの空気をなお横切っており、航跡はすでに向きを変えていたが、揚力はその旋回に応じて強まらなかった。数分前には、よく似た針路と対気速度が機体を上へ運んでいた。いま弱まっているというだけでは、山岳波がもう位置を移したとはまだ断定できない。パイロットは理由がはっきりするのを待たず、偏向はすでに始まっていた。
先に風下へ進んで下降域に入れば、帰り道は強い向かい風に抗うことになる。二つの方向の差は、結果が現れる前にすでに航跡の上へ落ちていた。片方は、つい失ったばかりの上昇を風に向かって探す道であり、もう片方は機体を下降気流へ連れていき、そのあと逆風の中を戻るよう求める道だった。
波形が安定しているとき、針路と対気速度を調整すれば、グライダーはより強い上昇域を使い続けることができる。機体は空中に静止しているわけではなく、翼はつねに速く空気を切って進んでいる。風上へ飛ぶことは、地面に対する移動の一部を打ち消すだけだ。速度が少し低ければ、航跡は風下へ滑り出してしまう。その一連の操作はさきほどまで効いていたが、この瞬間には上昇を取り戻さなかった。
機体は風上へ横切り続けた。いま通過している空気は先ほどの上昇を保っておらず、新しい強い揚力もすぐには現れなかった。偏向は、さきほど働いていた航跡から機体を離したが、まだ別の確認済みの位置へ運んだわけではない。コックピットの中に、境界線まで描き込まれた気流図はない。ただ山稜がコックピットに対してゆっくり動いていく。結果がまだ現れないうちに、機体はすでに高度と距離を使っていた。
この方向に、より強い揚力が隠れているとは限らない。優先して選ばれたからといって、正しい方向になるわけでもない。ただ、逆風で戻らなければならない下降域へ、まだ深く入り込んでいないだけだ。あとからの風による漂流の中で、機体は波の上昇側をふたたび横切るかもしれない。